チャーチルからルーズヴェルトへの手紙(1940年12月7日)

 

ウィンストン・チャーチル英首相がフランクリン・デラノ・ルーズヴェルト米大統領(以下FDR)に宛てて書いた手紙をご紹介します(1940年12月7日付・大使館経由で大統領に届けられたのは12月8日)。

どうやらこの手紙が、FDRが第二次世界大戦への参戦を決断する決め手となったもようです。

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*手紙の文章はこちらのサイトから入手しました。
*原文は末尾にPDFを添付しています(サイト上のテキストの誤植を一部修正しました)。
*この辺を読むと大体の感じがわかるよ、という部分にマーカーを引きました。

仮訳(抄)

今年の終わりが近づき、1941年に向けた諸々の見通しをご披露することがあなたのお望みに適うと考えます。私がそう強く確信するのは、大多数のアメリカ国民は、合衆国の安全、そして米英2つの民主主義国家とアメリカ国民が支持する種類の文明の将来はイギリス連邦の存続および独立の維持に結びついているという信念を心に刻んでいるように見えるからです。それによってのみ、大西洋とインド洋の支配がかかっているシーパワーの砦を、忠実かつ友好的な手の元に保持することができます。米国海軍による太平洋の制海権と英国海軍による大西洋の制海権は、両国の貿易路の安全にとって不可欠であり、戦争が米国の海岸に到達するのを防ぐ最も確実な手段であります

2. もう一つの側面があります。近代国家の産業を戦争目的に転換するには3年から4年かかります。それが飽和点に達するのは、民間の必要から免れることができる最大の産業努力を戦争生産に投入したときです。ドイツは1939年末までに確実にこの地点に達しました。大英帝国にいるわれわれは現在、2年目の半分を過ぎたところです。合衆国は、私の見るところ、われわれよりはるかに進んでいるということはないと思います。何より、私の理解では、合衆国では現在、海防、軍事、防空に関する巨大な諸計画が進行中であり、その完了にはおそらく2年の歳月が必要です。合衆国の準備が完了するまで戦線を維持し、ナチスの力に対処することは、共通の利益さらにわれわれ自身の生き残りのための英国の義務であります。2年が経過する前に勝利が訪れる可能性はあります。しかし、その可能性は、それを期待して、人間に可能な限りの努力を尽くすという姿勢を緩める権利をわれわれに与えるほど大きくはありません。ゆえに、私は、あなた方の善意と配慮への大いなる敬意とともに、こうした状況が続く間、大英帝国と合衆国の間には利害関係の確固たる一致があるという事実を申し述べます。この事実があればこそ、私はあえてあなたに手紙を書いているのです。

3. これまでの、そしてこれからも続くであろうこの戦争の形態を考えると、ドイツ軍が主力を発揮することができる戦域で彼らの巨大な軍隊に対抗することは不可能です。しかし、彼らが比較的小さな戦力しか投入できない地域では、われわれは、海軍力と空軍力でドイツ軍に対抗することができます。われわれは、ドイツのヨーロッパ支配がアフリカや南アジアにまで広がるのを防ぐため、最善を尽くさなければなりません。われわれはまた、〔彼らが〕海外侵攻の問題を解決できないようにするだけの強力な軍隊を、あの島に常時待機させておかなければなりません。われわれは、ご承知のとおり、できるだけ早く50から60個師団を編成しようとしています。たとえ合衆国が不可欠なパートナーというだけでなく同盟国であったとしても、われわれは合衆国に大規模な遠征軍を要請するべきではありません。輸送という制約要素があります。軍需品や物資の輸送の方が、大量の兵士の海上移動よりも、優先されるべきではないでしょうか。今年の前半は連合国にとっても大英帝国にとっても不運な時期でした。この5ヵ月間、英国は、単独で、しかし軍需品と駆逐艦の提供という貴重な援助を、あなたが三度目の首長に選ばれた偉大な共和国から受けて戦い、戦況は力強く、おそらくは挽回しました。

(4.は原文になし)

5. 圧倒的な速攻攻撃によって英国が破壊される危険は、当面は非常に大きく退きました。その代わりに、ある危険が次第に増長しつつあります。突然の驚きも、人目を引く壮大さもないが、同じ程度に致命的なものです。致死的なその危険とは、船舶のトン数の着実な減少です。われわれは、無差別航空攻撃による住居の粉砕や民間人の殺戮に耐えることができます。われわれの科学が発達するにつれて、これらの攻撃をますますかわし、わが軍の戦闘力が敵の強さによりいっそう近づくにつれ、ドイツの軍事目標に報復攻撃をすることが可能になると考えています。1941年に向けた決意の実現可能性は、海にかかっています。この島に食料を供給し、必要なあらゆる種類の軍需品を輸入する手段を確立しなければなりません。ヒトラーとその同盟者であるムッソリーニを迎え撃つべく各戦地にわが軍を移動して待機させなければなりません。これらすべてを、大陸の独裁者たちの精神が打ち砕かれるまで続けるという確証をもって行わなければなりません。ときに、合衆国が戦闘の準備を整えるには時間がかかり、間に合わない可能性があります。したがって、1941年、この戦争の勝敗の鍵は、海運であり、大洋とりわけ大西洋を横断する輸送力に見出されるのです。一方で、海上で必要なトン数を制約なく行き来させることができれば、ドイツ本土への質の高い航空戦力の投入とドイツの支配下にある地域住民の間で高まる怒りが、文明の苦悶を終わらせ、慈愛と栄光に導くことになるかもしれません。しかし、この任務を過小評価してはいけません。

最近数カ月間の海上輸送の損失は、最近数ヶ月の数字は別表に記載していますが、第一次世界大戦の最悪の年月に匹敵する規模に達しています。11月3日までの5週間で合計420,500トンが失われました。われわれの見積もりでは、わが国の戦力をフルに維持するためには年間43,000,000トンの輸入が必要ですが、9月の輸入量は57,000,000トン、10月は38,000,000トンにとどまりました。・・(中略)・・われわれは駆逐艦と護衛艦の両方を必要としています。規模において、資源も準備も、われわれは十分に持っているとはいえません。(以下略)

7. 今後6、7ヶ月で本国海域における戦艦による戦闘力は相対的に優位になりますが、ごくわずかであって満足には及びません。「ビスマルク」と「ティルピッツ」が1月には配備されるでしょう。われわれはすでに「ジョージ5世」を保有し、「プリンス オブ ウェールズ」が加わる予定です。これらの近代的な艦船は、もちろん、とくに空からの攻撃に対して、20年前に設計された「ロドニー」や「ネルソン」などの船よりもはるかに強化されています。われわれは最近、大西洋横断の護衛に「ロドニー」を用いなければなりませんでしたが、数が非常に少ない場合はつねに、機雷や魚雷が戦列の強さを決定的に変える可能性があります。 われわれは「デューク・オブ・ヨーク」の準備が整う6月に一息つきます。「アンソン」が加わる1941年末にはさらに状況はよくなるでしょう。しかし、あの第一級の、近代的で、3万5000トンの、15インチ砲を備えたドイツ戦艦2隻は、かつて要求されたことのないレベルの集中の維持をこの戦争でわれわれに強いています。

8. イタリアの2隻の “Littorles “がしばらくの間行動不能になることを願っています。「リシュリュー」と「ジャン・バルト」については、あなたの協力に感謝しています。しかし、大統領閣下、あなたほどはっきりおわかりの方はおられないでしょうが、この数ヶ月の間に、私たちは、この戦争で初めて、敵が私たちの最強の2隻の船、そして唯一近代的な2隻の船と同等の2隻の艦船を従えてくるという状況での艦隊行動を検討しなければならなくなりました。トルコ方面の地中海におけるわれわれの戦力を削減することは不可能ですし、実際、東部海域全体の情勢はわれわれの艦隊保有にかかっています。古い、近代的でない船も護衛に用いなければならないでしょう。そういうわけで、戦艦クラスにおいても、われわれは手一杯の状況にあります。

9. 第二の危険領域があります。ヴィシー政府は、ヨーロッパにおけるヒトラーの新秩序に加わるか、あるいは、われわれに自由なフランス植民地に対して海から派遣された遠征隊への攻撃を強いるような何らかの謀略によって、まだ彼らの支配下にある非常に規模の大きい無傷の海軍力を枢軸国側に配備する口実を見つけるかもしれない。もしフランス海軍が枢軸国に加われば、西アフリカの支配権はただちに彼らの手に渡り、大西洋の北と南を結ぶわれわれの連絡網に深刻な影響が及ぶおそれがあります。ダカールや、もちろんその後、南アメリカにも影響が及ぶでしょう。

10. 第三の危険領域は極東にあります。日本がインドシナ半島を南下し、サルゴンやその他の海・空軍基地を目指していることは明らかです。日本は海外遠征軍として5個師団を準備しているとの情報もあります。今のところ、われわれは事態がこのように推移した場合に、それに対処することができる戦力を極東に有してはおりません

11. このような危険を前にして、私たちは1940年という年を、爆撃を受けながらの国内での増産と海外からの供給を通じての勝利の礎となる兵器、特に航空機の供給を強化するために用いなければなりません。私がここまでご説明してきた各種の事実、もちろんさらに多くの事実を付け加えることが可能でしょうが、それらが明らかに示しているように、この任務はきわめて困難であり、かつ、重大です。それゆえ、私は、ある面では、われわれの共通の大義といえるもののために、合衆国がなしうる究極的かつ決定的な援助方法の各種をあなたのまえに示す資格がある、いや、そうしなければならないと感じているのです。

12. もっとも肝要なのは、わが国に向かう大西洋航路における損失を食い止めまたは削減することです。この点は、海軍力を増強し攻撃に対処することおよび輸送を頼む商船の数を増やすことのどちらの方法でも達成できます。この第一の目的のためには、つぎのような選択肢があると思われます;

(1)先の大戦後の合意に則る原則であり、かつ、1935年にドイツが進んで受容し定義したものでもある、違法で野蛮な戦争からの海洋の自由の原則を、合衆国が再主張すること。これにより、合衆国の船舶は、法的な封鎖の対象となっていない国々との貿易を自由に行うことができるはずです。

(略(2)(3))
(略(13. 14.))

15. あなたはわが軍に関する情報もお持ちです。軍需分野では、敵の爆撃にもかかわらず、我々は着実に前進しています。工作機械の供給やその他の物品の在庫供与といったあなた方の継続的な援助なしには、1941年に50個師団編成を予定することはできなかったでしょう。また、1942年の作戦に間に合わせるため、追加で10個師団分のアメリカ型兵器を提供していただけることにも感謝しています。しかし、独裁の潮流が後退をはじめたときには、自由を回復しようと、多くの国々が武器を頼んでくるかもしれません。そのため、私はまた、小火器、大砲、戦車のアメリカの生産能力を最大限に拡大する重要性も強く訴えなければなりません。

16. 私は、貴国から入手したい各種軍需品の全要項をお示しする手はずを整えています。その大部分はもちろんすでに合意済みのものです。・・(中略)・・

しかし、これは非常にテクニカルな領域なので、これ以上詳しく述べることは致しません。

17. 最後に、資金の問題について述べます。軍需品や船舶をあなた方が迅速かつ豊富に供給して下されば下さるほど、われわれのドル準備は早く枯渇します。ご承知のとおり、われわれのドル準備はすでに今日までの支払いで非常に激しく流出しています。実際、これもご承知のとおり、合衆国に軍需工場を建設するために決定済みないし決定保留中の支出を含め、すでに発注済みないし交渉中の注文の総額は、大英帝国が自由に使える残りの為替資源を何倍も上回っています。われわれが船舶や軍需品に現金で支払うことができなくなるときが近づいています。われわれは為替制度を通じた支払いを行うべく最大限を尽くし、いかなる適切な犠牲も惜しまないつもりです。他方で、この苦しい戦闘がピークに達しているときに、大英帝国が売却可能な資産をすべて剥ぎ取られ、その結果、われわれの血とともに勝利が勝ち取られ、文明が救われ、合衆国があらゆる事態に向けて十分に武装するだけの時間が獲得された後、われわれが身ぐるみはがされて立ち尽くさなければならなくなるといったことは、基本的に誤っており、実際上どちらの利益にもならないという点について、あなたに同意していただけると信じています。そのような成り行きは、どちらの国にとっても、道徳的、経済的利益に適うものではありません

私たちの側は、戦後、合衆国から、われわれの輸出量を上回る大量の輸入品を購入することーそれは貴国の関税と国内経済にとって好ましいことですーはできなくなるでしょう。英国が残酷な窮乏に苦しむだけではありません。アメリカでは失業が蔓延し、やがて輸出力も縮小していくことになるのです。

18. さらに、私は、合衆国の政府および国民は、貴国が寛大なる姿勢で約束してくれた軍需品や日用品の援助を直ちに支払いを受けられる分だけに限定するというようなことが、彼らの行動を導く諸原則に合致すると考えるとは思いません。あなたは、われわれが共通の大義のために最後まで苦しみ抜き犠牲を払う準備ができていることを自ら証明し、喜んでその闘士として戦うことを確信していることでしょう。それ以外のことは、あなたと貴国の国民にお任せします。大西洋の両岸の将来世代が賛同し賞賛するような方法と手段が必ず見出されると信じています。

19. もし、大統領閣下、あなたが、私と同じように、ナチスとファシストの暴虐を打ち負かすことが合衆国国民および西半球にとって高度な重要性を持つ事項であると確信しておられるなら、あなたは、この手紙を、助けを求める嘆願書としてではなく、共通の目的を達成するために必要な行動を記した陳述書としてお読み下さるに違いありません。 

ウィンストン・S・チャーチル

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