NHK 混迷の世紀「世界債務危機は止められるか」鑑賞ガイド

週末にやっていた番組をおそるおそる見たら、意外に面白かったので、推薦文を書くことにしました。

とくに「基軸通貨ドル」の「③グローバル・サウス+BRICS」をお読みいただいた方には見応えがあると思います。再放送(または配信)をぜひご覧ください。

NHK側の意図とは違うと思いますが、1990年代と同じ構造の債務危機が再燃していること、IMFと西側世界の対応は相変わらず「ワシントン・コンセンサス」であること、そこへひょっとすると中国が「プランB」を提供しようとしていることなどが伺えます。興味深いです。

(1)再燃する債務危機:違いは中国の存在感?

番組はなんとなく「中国のせい」にしたがっているようですが、実際には主として西側の投資行動に起因する債務危機が再び猛威を振るっているようです。

「学ばない」(西側が)といいたくなりますが、そこは確信犯なので仕方がありません。

当時と同じ点と違う点を確認しましょう。

当時の危機の構造は、下の通りでした。

スタグフレーション・マネー (アメリカの経常赤字ファイナンスのためのおかねの増えすぎ+低成長時代に突入による金余り→金融に活路)→ 途上国に投資 →金利上昇 + 資金の引き上げ → 債務危機 → IMFの融資 → 社会・経済の混乱

○今回は、このように。

金融危機マネー(危機後の超金融緩和によるおかねの増えすぎ)→途上国に投資→金利上昇+資金引き上げ→ 債務危機IMFと中国が主導権争い?

従来であれば、IMFが介入し、いつもの通りに「処理」していたわけですが、「グローバル・サウス+BRICS」、とくに中国の存在感が強まっているために、いつも通りのやり方ができなくなっている。

NHKは、それを「問題」と見て、日本が調整の役目を果たそうとしている、というような筋書きの話にしていますが、IMFのやり方の問題点を知っていると、その筋書きには乗れません。

(2)補足:債務危機を起こしたのは中国ではない

番組は、まあ勉強になりますし、それほどひどい嘘をついているわけでもありませんが、中国に悪いイメージを着せるためなのか、情報の出し方に不適切な点が見られます。

早めの時間(7分25秒のようです)に出てくる下のグラフ。

映像とナレーションをそのまま受け取ると、スリランカに対する最大の融資国は中国で、まるで「そのために債務危機が起きている」といわんばかりです。

しかし、それは違います。

グラフの総額にご注目ください。中国が69億ドル、日本が27億ドル、全体だと130億ぐらいでしょうか。

しかし、番組の(数分前の)ナレーションによると、スリランカの負債総額は360億ドルです。残りの230億ドルの話はどこに行ってしまったのでしょうか。

そう思って、再びグラフを見ると、タイトルに「2国間融資」とあります。これは、おそらく国家間の公的な融資のことでしょう。

ということは、おそらく、残りの230億ドルは民間資本からの融資で、だからこのグラフには含まれていません。しかし、気まぐれな資本投下と引き上げで債務危機を引き起こしている真犯人は民間資本なのです。そして、その大部分は、アメリカ、イギリス、ヨーロッパ、日本からのものと推察されます(この部分で中国などの存在感がどのくらい上がっているのか私は見当がつきません)。

債務危機の処理においても、厄介なのは民間の融資です。

公的な融資は、国家間で話し合って、適当に調整をすればよいのです(番組で取り上げているのもその「調整」です)。とりわけ中国や日本がメインアクターであれば。一帯一路の関連での中国の融資も、債務を調整したり、帳消しに近い対応をすることもあると聞きます。

しかし、民間の融資は違います。いや、別に民間だって「徳政令」的に帳消しにしてやれ!と私は思いますが、ともかく「民間からの融資には手をつけられない」というのがアメリカ・イギリスが一貫して主張してきた立場で、それこそが、債務危機→IMFによる融資→融資条件による経済の構造調整 という政策の根拠になっているのです。

(3)IMF VS 中国?

この辺は推測ですが、番組で取り上げられている日本の役割は、民間資本によって引き起こされた債務危機に際して、「調整の効く国家間融資の部分でできるだけ何とかしてくれ」、あるいはまた、「中国に従来のIMF的処理を邪魔されては困る。うまくやってくれ」みたいな指示を受けて頑張っている、という感じかもしれません。

スリランカと中国が蜜月という雰囲気も出ていたので、中国からスリランカへの融資の一定部分は(もしかしたら日本もですが)、債務危機に対応するための融資である、という可能性もあると思います。

その場合、中国は、IMFの融資+構造調整に代わる「プランB」をスリランカに提供しているのかもしれず、スリランカはIMFより中国の方をより信頼し、中国に多くを委ねようとしている。番組には、その様子が映されている、と見る余地があるかもしれません。

◉ NHK 混迷の世紀 第13回「世界債務危機は止められるか」は、11月22日(水)深夜(23日(木)午前0:35-1:25)に再放送予定、配信もしているようです。


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